高齢者の心を知るためには、高齢者個人の歴史のみならず、生きてきた時代背景も知っておく必要があります。例えば、戦中・戦後の苦労を味わった高齢者は、若い頃に一度はお国のために死ぬ決意をしたり、我慢を強いられることが多かったため、忍耐強い性格の持ち主が多いです。団塊の世代は戦争体験こそないものの、その後の過酷な競争社会をくぐり抜けているため、あまり我慢せずはっきりと自己主張してくることも考えられます。
そして現代について考える必要もあります。高齢者が生きてきた時代とは、大きく様変わりしています。終戦を機に平等になった世の中では、いつも年長者の主張が通るとは限りません。また道具が変化したことで、高齢者の知識や経験といった生活の知恵が必要とされなくなったものもあります。分からないことは、今はパソコンやスマホ一つで解決できます。こうした機器を使いこなすには、まず操作を覚えなければならないため、圧倒的に若者の方が有利です。デジタル社会は便利な反面、高齢者の立場や役割を奪っているとも言えるのです。
高齢者の心をケアするためには、高齢者が生きてきた時代背景を理解し、置かれた立場や状況を汲み取る必要があるでしょう。これまでの人生で味わってきた苦労に対する労いの気持ちを持ち、知ることのできる範囲でそれぞれの生活史を把握すること。その上で加齢による体の変化を考慮し、高齢者の心にアプローチしていくこと。これらを丁寧に実践することが、高齢者の心を手厚くケアすることに繋がるでしょう。これらのケアの一環としてセラピーを取り入れる施設も増えており、身体的なケアだけでなく心のケアの重要性も問われています。